| HOME 猫のプランタン ただいま戻りました 異人たちの路地裏 あの日のサンセット通り メガシティに響く | |||||||||
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新宿、ゴールデン街の裏手に、地図には載っていないような細い路地があった。 夕暮れになると、そこに小さな灯りがともる。古い木造家屋の二階からピアノの音が聞こえ、路地の奥では、見知らぬ国の言葉で誰かが笑っていた。 僕がその路地を見つけたのは、雨の日のことだった。 入口に立っていた老人が、僕に声をかけた。 「君も、帰るところがないのかね」 老人はフランス語で話し、僕はなぜか意味がわかった。 奥の店には、長い髪の女がいた。彼女は昔、パリのモンマルトルで画家をしていたと言った。隣の席の青年は、ブエノスアイレスから来たタンゴ弾きだった。誰もが東京に住みながら、どこか別の街の続きを生きているようだった。 「ここでは、みんな異人なんですよ」 女が微笑んだ。 「自分の街を少しだけ失くした人たち」 僕は黙って、グラスの水を飲んだ。 窓の外、新宿のビルの向こうに夕陽が沈んでいく。遠い国の記憶が、路地の壁に淡く映っていた。 帰り際、老人が言った。 「またおいで。東京は広いけれど、路地裏は案外狭いからね」 その夜、僕は知らない街の夢を見た。 目が覚めると、東京の朝だった。窓辺に置いたコーヒーから、かすかな湯気が立っていた。 |
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